近年、犬の飼育環境変化および医療の急激な進歩や、ペットフード面の発達などにより、家庭で飼育されている犬に高齢化傾向が起き始めています。わが国でも人間と同じような環境で飼育されることが多くなり、高齢犬が多くなりました。それによって問題行動や痴呆を起す犬も見られるようになりました。
特徴
13歳以上の室内犬に発生率が高く、症状としてよく見られるものとして、以下のものがあります。
大きな抑揚のない一本調子の鳴き声
昼はほとんど寝ていて夜起きる昼夜逆転
真夜中に放浪しだし狭い所に入って鳴きわめき出す(歩行は前進のみ)
飼い主は識別できず、何が起こっても無反応で、トレーニングした行動はすべて忘れる
食欲旺盛で、いくら食べても下痢しないが、痩せてくる
飼い主はこのような犬とつきあっていると、睡眠不足になり結局精神・肉体的にも負担が多くなり、飼い主との信頼関係・生活の質も崩れて、家庭内の問題児となってしまいます。また、このような症状が出現しても数年は生存することもあります。
早期発見のための診断
動物エムイ-リサ-チセンタ-の獣医学博士、内野富弥氏により犬痴呆判断基準法が発表されています。愛犬が痴呆症にかかっているかを判断できるチェック表で、採点して見ましょう。
痴呆犬判定基準
(1)食欲/下痢 | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)昼の動きが少なくなり、夜も昼も眠る | 2 |
(3)異常に食べて、下痢をしたり、しなっかたりする | 5 |
(4)異常に食べるが、ほとんど下痢をしない | 7 |
(5)異常に何を食べても下痢をしない | 9 |
(2)生活リズム | スコア |
(1)正常(昼は起きていて夜は眠る) | 1 |
(2)昼の動きが少なくなり、夜も昼も眠る | 2 |
(3)夜も昼も眠っていることが多くなった | 3 |
(4)昼も食事時間以外は死んだように眠っていて、夜中から明け方に突然動き回る。飼い主による制止がある程度可能 | 4 |
(5)上記の状態を人が制止することが不可能な状態 | 5 |
(3)後退行動(方向転換) | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)狭いところに入りたがり、進めなくなるとなんとか後退する | 3 |
(3)狭いところに入るとまったく後退できない | 6 |
(4)(3)の状態ではあるが、部屋の直角コーナーでは転換できる | 10 |
(5)(4)の状態で、部屋の直角コーナーでも転換できない | 15 |
(4)歩行状態 | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)一定方向にふらふら歩き、不正運動になる | 3 |
(3)一定方向にのみ、ふらふら(大円運動)歩きになる | 5 |
(4)旋回運動(小円運動)をする | 7 |
(5)自分中心の旋回運動になる | 9 |
(5)排泄状態 | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)排泄場所をときどき間違える | 2 |
(3)所構わず排泄する | 3 |
(4)失禁する | 4 |
(5)寝ていても排泄してしまう(垂れ流し状態) | 5 |
(6)感覚器異常 | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)視力が低下し、耳も遠くなっている | 2 |
(3)視力、聴力が明らかに低下し、何にでも鼻をもっていく | 3 |
(4)聴力がほとんど消失し、臭いを異常に、かつ頻繁に嗅ぐ | 4 |
(5)臭覚のみが異常に過敏になっている | 6 |
(7)姿勢 | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)尾と頭部が下がっているが、ほぼ正常な起立姿勢をとることができる | 2 |
(3)尾と頭部が下がっているが、起立姿勢をとれるがアンバランスでふらふらする | 3 |
(4)持続的にぼーっと起立していることがある | 5 |
(5)異常な姿勢で寝ていることがある | 7 |
(8)泣き声 | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)鳴き声が単調になる | 3 |
(3)鳴き声が単調で、大きな声を出す | 7 |
(4)真夜中から明け方の定まった時間に突然鳴き出すがある程度 制止が可能 | 8 |
(5)(4)と同様であたかも何かがいるように鳴きだし、全く制 止できない | 17 |
(9)感情表出 | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)他人及び動物に対して、何となく反応が鈍い | 3 |
(3)他人及び動物に対して、反応しない | 5 |
(4)(3)の状態で飼い主のみにかろうじて反応を示す | 10 |
(5)(3)の状態で飼い主のみにも、まったく反応しない | 15 |
(10)習慣行動 | スコア |
(1)正常 | 1 |
(2)学習した行動あるいは習慣行動が一過性に消失する | 3 |
(3)学習した行動あるいは習慣行動が部分的に持続消失している | 6 |
(4)学習した行動あるいは習慣行動が部分的に殆ど消失している | 10 |
(5)学習した行動あるいは習慣行動が部分的に全て消失している | 12 |
症状判定基準
愛犬の採点結果を下記の点数基準と比較してみて下さい。
- 30点以下: 老犬
- 31-49点: 痴呆予備犬
- 50点以上: 痴呆犬
治療
人間と同様に根治的な治療というのはありませんが、n-3系の不飽和脂肪酸(DHA・EPAなど)が痴呆症状の改善と、予防に効果があることが研究によって判ってきました。また、人間用の抗うつ剤から開発されたものもあります。
痴呆の犬は前進しかできず、狭いところへ入り動けなくなって鳴きつづけてしまいます。効果的なのが、風呂マット3枚を丸くつないだ自作ケージ「エンドレスケージ」の活用です。柔らかい風呂マットで丸く囲ったケージだと、角がないために、犬はどこまでも「前」に進むことができ、やがて疲れはてると、静かにうずくまって眠りにつくというわけです。「エンドレスケージ」の床には「おねしょマット」を敷き、つねにオシッコやウンチの後始末をきちんと行うことが大事です。痴呆でも犬は自分の体が排泄物で汚れることを極端にいやがり、身動きできなくなったときと同様に、しきりに鳴き叫びます。
痴呆の治療薬として発売されているものを紹介します。
・メイベットDC(明治製菓)・・・不飽和脂肪酸(DHA、EPA、DPA)入りの栄養補助食品
・クロミカーム(アニマルヘルス)・・・人間用の抗うつ剤から開発
・b/d(ヒルズ)・・・処方食